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この黒い塊は、何だろう?
一見すると、黒くて硬い団子のような塊。これが柚子から作られたとはにわかには信じられない。しかし封を開けると、やんわりと柚子の香り。
これが龍神村・十津川村名産の「柚べし(ゆべし・柚餅子・ゆうべし)」である。
ゆべしは、柚子の実をくりぬいた中に、落花生や胡桃(くるみ)・きな粉・ゴマなどを合わせた味噌を詰め、蒸してから寒風の中乾燥させたもの。
伝統の保存食
その昔、山間でも比較的容易に栽培できる柚子を利用し、保存食または携帯食として作られたのが始まりとされる。十津川村では、幕末、十津川郷士として京都御所御警衛のおりに携行したといういい伝えとともに、ゆうべしの製法が伝えられた。
現在は砂糖を多く入れ和菓子として作られる地方もあるが、熊野の柚べしは伝統の製法で作られる保存食である。ひとつひとつ手間暇をかけて手造りし、そのあと数ヶ月乾燥させるため、大量に作れるものではない。
柚べしは決して、高級食品ではない。見かけも美しいとは言い難い。人気のスイーツのように、万人に好まれる味でもない。長年、厳しい山間でひっそりと作られてきた伝統食である。
龍神村や十津川村を訪れたら、柚べしを一つは手に入れ、旅の後に薄くスライスして食べてみよう。味噌のやわらかい塩気に、落花生や胡桃などの微かな甘み、そして柚子の香りがふんわりと口に広がる。
おかいさん(茶がゆ)やご飯と一緒に、またお茶請けとして、お酒の肴としても試してほしい。柚子の香りの合間から、龍神や十津川の厳しい自然と、美しい風景が見えるだろうか。

